退職した看護師からまとまった額の残業代を請求された、当直の実態が宿日直許可の基準に合っていないと労働基準監督署から指摘された、問題のある職員への対応に苦慮している。日々の診療に追われる中で、経営者として難しい労務の判断を迫られる場面は少なくありません。
当事務所は、病院やクリニックの使用者側(経営者側)に特化して労務管理を支援しています。タイムカードや診療記録をもとに勤務実態を精査し、職員側への回答書作成から示談交渉、就業規則の見直しまで、医療機関の立場に徹して対応します。
診療・ケアの現場に合わせて労務を整理する
医療現場の労務管理は、日勤、夜勤、宿日直、オンコール、待機、自己研鑽と勤務形態が複雑に分かれています。「当直手当を払っているから大丈夫」と過信してはいけません。院内でどう呼んでいるかではなく、夜間に実際にどれだけ診療業務を行っているかという中身で労働時間か否かが決まります。
宿日直と夜間業務
許可の対象と実際の勤務を確認し、通常業務を行った時間や記録の残し方を整理します。
確認する残業代の請求
請求書と勤務記録を照合し、争いのある時間、賃金の計算、施設としての回答を検討します。
確認する指導・懲戒・退職
問題となる行為、指導の経過、就業規則を確認し、通知や処分を行う前に手順を整えます。
確認するハラスメントの申告
相談窓口、調査の担当者、当事者への聞き取り、職員を保護する対応を検討します。
確認するタイムカードの打刻だけで勤務時間を判断してはいけません。看護記録の入力時間、電子カルテのログ、申し送り時間などから「実質的に指示された残業だった」と主張されるためです。現場でどのような指示が出されていたのか、客観的な記録と突き合わせて実態を把握する必要があります。
人員配置の事情がある場合も、法的な対応と勤務体制の調整を一緒に考える必要があります。一人の退職や休職が他の職員の夜勤や残業に影響するため、個別の対応を決める前に、代替の配置や引継ぎの見通しを確認します。診療を継続する事情だけで、勤務時間の管理を省略することはできません。
宿日直許可の範囲と、実際の業務を確認する

労働基準監督署の宿日直許可を受けていれば、その時間は労働時間・休憩・休日の規定の適用を受けません(労働基準法41条3号、同法施行規則23条)。ただし、昔に受けた許可書があるからといって安心はできません。許可を受けた当時の診療体制と現在の実態が違っていれば、その勤務が宿日直として扱われず、許可の取消しにつながることもあります。
- 許可の範囲
- 実際の業務
- 休息の状況
厚労省の通達(令和元年7月1日基発0701第8号)では、宿日直として認められるのは「通常の勤務から完全に解放され、夜間に十分な睡眠が取れる軽度・短時間の業務」に限られます。夜間に救急搬送の対応や入院患者の処置が常態化している場合、宿日直許可の要件を満たしません。
| 確認する項目 | 院内で用意する情報 |
|---|---|
| 通常勤務との関係 | 通常の勤務が終わる時刻、宿日直に入る時刻、連続して行っている業務。 |
| 夜間の業務 | 呼出しの内容・頻度、処置や診療に要した時間、定時巡回等の実態。 |
| 休息の状況 | 睡眠を取れる設備と、実際に休息が妨げられる場面。 |
| 許可の対象 | 所属診療科・職種・時間帯・業務の種類など、許可書で限定されている範囲。 |
宿日直許可がある病院でも、夜間に突発的な手術や救急患者の診療を行った時間は、通常の時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。宿日直手当を定額で支給していても、それだけで足りるわけではなく、実際に働いた時間分の差額を請求されることがあります。
許可は診療科、職種、時間帯、業務の種類等を限って与えられることがあります。以前の許可をそのまま使っていても、救急の受入れや職員配置が変わり、実際の業務が変化していることがあります。新たな申請だけでなく、現在の運用と許可内容を照合したい場合もご相談いただけます。
当事務所では、現在の勤務表、労基署の許可書、夜間の当直日誌を照合し、不払いのリスクがないか点検します。許可基準から外れている業務があれば、診療科や時間帯を限定した新たな許可申請や、交代制勤務への移行など、現実的な改善策をご提案します。
医師の上限規制と、残業代請求への対応
36協定と医師個人の勤務時間を確認する
医師の時間外労働の上限規制は2024年4月から適用されています。特別条項付き36協定の年間上限は、A水準・連携B水準が960時間、B水準・C水準が1,860時間で、いずれも休日労働を含みます。どの水準に当たるか、施設の協定が何を定めているかを確認して、勤務の見通しと照らし合わせます。
960 時間
1,860 時間
いずれも休日労働を含みます。副業・兼業がある場合は、医師個人の通算した労働時間の管理も別途確認します。
医師の時間外労働は、月100時間未満(休日労働含む)が原則です。一般企業に適用される「複数月平均80時間」の規制は医師には適用されませんが、年960時間(A水準)等の年間上限を超えてはなりません。また、当直明けの勤務間インターバル確保などの健康確保措置を講じる義務があります。
上限の確認では、医師の区分ごとの協定内容と、実際に働いた時間、今後の診療体制をまとめます。副業・兼業がある医師については、自院で把握する時間だけで管理が完結するかも確認します。当事務所では、制度の適用関係と院内の記録・申告の運用を照合し、規程や管理方法の見直しを支援します。
退職した看護師・職員から残業代を請求されたとき
退職職員の代理人弁護士から未払残業代の請求書が届いても、慌てて全額を支払ったり、逆に感情的に門前払いしたりしてはいけません。相手の請求期間、基礎賃金の計算式、固定残業代の控除の有無を精査し、法的に支払い義務がある金額を冷静に見極める必要があります。
時間外・休日・深夜の割増賃金は労働基準法37条に定めがあります。賃金請求権の時効は5年とされ、当分の間は3年です(同法115条・附則143条3項)。2020年4月1日以降に支払期日が来る賃金について、支払期日ごとに確認します。「退職してから何年か」だけで判断しないことが大切です。
請求への対応を、資料確認から進めます。
請求を確認
対象期間、主張される勤務、計算方法、回答の要請を整理します。届いた文書と封筒、これまでの連絡を保管します。
勤務と照合
打刻だけでなく、宿日直、研修、引継ぎなど、争われている場面の実態を資料と聞き取りで確認します。
回答を検討
争いのある点、施設として説明できる点を整理し、回答、交渉、支払等の方針と費用を検討します。
一人の職員からの残業代請求を放置すると、在職する職員へ一気に広がることがあります。個別の交渉を進めると同時に、固定残業手当の見直しやタイムカード管理の徹底を行い、将来の請求に備える体制づくりを急いでください。過去の記録をさかのぼって書き換えることは、絶対に避けてください。
職員への指導・懲戒・退職対応を進める
「協調性がない」「態度が悪い」といった曖昧な理由で職員を処分することはできません。「〇月〇日、指示した処置を怠った」「患者に対して大声で暴言を吐いた」というように、具体的な問題行動を日時とともに記録し、就業規則のどの条項に違反するかを本人に明示して書面で指導してください。
面談での指導では、注意するだけでなく本人の言い分も聴き取り、面談記録として残します。一度の注意だけで解雇するのは、通常は認められません。改善の機会を与え、それでも変わらなかったという段階的な指導の積み重ねが、後の紛争で施設を守ります。
避けたい対応
- 曖昧な評価だけで処分を決める
- 本人の説明を聞く前に結論を周囲へ伝える
- 30日分の解雇予告手当を支払えば自由に解雇できると誤認する
整えておきたい対応
- 行為・影響・指導の経過を資料で確認する
- 調査と説明の機会を設けて判断を記録する
- 理由と手続を分けて、処分の有効性を検討する
懲戒や解雇は、理由と手続を確認する
懲戒は、行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効です(労働契約法15条)。解雇についても、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(同法16条)。処分の名称だけを先に決めず、根拠となる規程と事実を確認します。
「1か月分の給料を払うから明日から来なくていい」という進め方は危険です。労働基準法20条の予告手当を支払っても、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、解雇は無効になります(労働契約法16条)。無効と判断されれば、解雇の時点にさかのぼった賃金の支払いを命じられることがあります。
退職勧奨・休職からの復帰をめぐる対応
退職勧奨を検討する場合は、施設が提案する内容と、本人の意向を確認する方法を整理します。面談で説明した内容、本人の返答、合意に至った範囲を記録し、その場で署名を迫るような進め方を避けます。退職日、引継ぎ、書面の内容など、合意が必要な事項を具体的に検討します。
休職中の職員の復帰では、就業規則、休職の経過、提出された診断書、担当する業務の内容を確認します。診断書の一文だけで復帰の可否を決めず、必要な情報をどのように確認し、就労上の配慮や配置をどう検討するかを整理します。医療に関する情報を院内で共有する範囲にも注意して進めます。
院内ハラスメントの申告を受けたとき

パワーハラスメント防止の雇用管理上の措置義務は労働施策総合推進法30条の2に、セクシュアルハラスメント防止の措置義務は男女雇用機会均等法11条に定められています。相談窓口を設けるだけでなく、実際に申告があったときに、誰が話を聞き、どの範囲の調査を行い、どのように対応を決めるかを整えます。
- 相談を受ける
- 事実を確かめる
- 職場を整える
ハラスメントの申告を受けた際、被害を訴えた職員を不用意に異動させてはいけません。法律上、申告を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています。まずは行為者とされる職員と接触しないよう一時的なシフト調整を行い、プライバシーを厳守して事実確認を進めます。
調査の場面ごとに確認する内容
申告を受ける
日時、言動、関係者、業務への影響、希望する対応を伺い、直ちに必要な安全確保や保護を検討します。
事実を確認する
当事者や関係者から個別に話を聞き、メール・記録等と照合します。確認できた事実と、評価や推測を分けます。
施設として対応する
調査結果を踏まえ、必要な措置、本人への説明、職場環境の改善、再発防止の方法を検討します。
パワハラの行為者とされた人が院長自身や有力な勤務医である場合、院内の職員だけで公平な調査を行うことは難しくなります。身内をかばったと受け取られて紛争が長引くのを防ぐため、中立な外部の弁護士を調査の窓口として選任し、事実関係の調査を委ねる方法があります。
聞き取りでは、申告された言動があったかを確認することと、施設としてどの措置をとるかを分けて検討します。双方の説明が異なる場合も、どちらかの説明をそのまま採用するのではなく、記録や周辺事情を確認します。調査の経過を残し、後から判断の理由を説明できる状態にすることが重要です。
採用の場面も点検の対象です。同日から求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も事業主の義務になります。面接や施設見学に関わる担当者、相談を受ける窓口、問題が生じた場合の連絡手順を確認します。患者対応の詳しい論点は、患者・ご家族とのトラブルのページでご案内しています。
就業規則・賃金規程と運用を揃える
就業規則があっても、実際の勤務や職員への説明と一致していないことがあります。雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程、36協定、各種の院内手順を並べ、どの資料で何を定めているかを確認します。古い書式が部署ごとに残っている場合や、職種によって運用が違う場合には、その違いも整理します。
院内の規程を変更する際は、文言の修正だけでなく、職員への説明、周知、実際の勤怠・賃金処理までを確認します。制度上は申請が必要でも実際には誰も確認していない、承認されていない残業が記録されない、といった運用との食い違いを把握して見直しを検討します。
お手元の資料を確認
相談に向けた資料の確認
手元にある資料にチェックできます。揃っていない段階でもご相談いただけます。
資料を用意する際は、該当する職員の記録だけでなく、その職場で共通して使っているルールも確認します。紛争が起きてから説明を合わせるために資料を作り直すのではなく、当時の文書を残し、現在分かっている事情を補足します。相談時には、どこに不足や不明点があるかもお伝えください。
顧問税理士や社会保険労務士が関与している場合は、現在の役割分担を伺います。賃金計算や届出の運用と、法的な評価・紛争への対応を整理し、必要な連携を検討します。院内で同じ内容を何度も確認する負担を減らせるよう、窓口と資料の共有方法を決めて進めます。
団体交渉・労働審判から日々の労務管理まで
外部から届いた文書への対応を整理する
社外の合同労組(ユニオン)から団体交渉申入書が届いても、門前払いしてはなりません。正当な理由のない団交拒否は不当労働行為(労働組合法7条2号)にあたります。要求事項を精査し、交渉日時や出席人数の事前ルールを取り決めたうえで、弁護士を同席させて対応します。
裁判所から労働審判の申立書が届いたら、すぐに弁護士へご相談ください。第1回の期日は申立てから40日以内に指定され、それまでに答弁書と主張を裏づける証拠を出す必要があります。初動で十分な反論ができないと、不利な見立てのまま解決を迫られることになりかねません。
事実と規程を確認
勤務、指導、申告の経過と院内規程を照らし、争点と不足する資料を整理します。
回答・手続を支援
通知や回答の作成、調査、交渉、労働審判・訴訟など、依頼に応じて対応します。
運用を見直す
同じ問題を繰り返さないため、就業規則、勤務管理、相談窓口や研修を検討します。
個別の職員対応の前に相談することで、施設が伝えたいことと、実際に文書へ記載する理由を整理できます。すでに通知や処分を行っている場合も、その経過を含めて確認します。取り得る対応を検討するには、施設に有利な資料だけでなく、相手が問題としている資料や説明も必要です。
医療機関からの初回相談は30分無料です。具体的な業務と費用は、資料の確認や依頼の範囲に応じてご説明します。継続した労務相談や院内制度の見直しには顧問契約もご利用いただけます。研修や委員会への関与についても、施設のご要望を伺います。
よくあるご質問
Q宿日直許可があれば、当直中の残業代は発生しませんか。
許可の対象となる宿日直と、通常の勤務と同じ態様の業務を行った時間を分けて確認します。通常業務に従事した時間には時間外労働の手続と割増賃金の支払が必要です。許可書、勤務の実態、夜間の対応記録を照合して検討します。
Q退職した職員からの請求に、すぐ回答する必要がありますか。
届いた文書と回答の要請を確認し、どの資料を確認してから回答するかを整理します。請求を見ないまま放置することや、記録を調べずに全て否定することは避けたい対応です。勤務や賃金の資料を保全し、施設としての連絡と回答の方針を検討します。
Q指導しても改善しない職員を解雇できますか。
行為の内容、指導の具体性、本人の説明、改善の状況、就業規則などを確認して判断します。解雇には合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。予告や予告手当の手続を行えば有効になるわけではなく、通知前に理由と資料を整理することが重要です。
Q院長や幹部への申告も、院内で調査できますか。
調査担当者と判断に関与する者を整理し、申告者が安心して話せる体制や、調査対象者の影響を受けにくい進め方を検討します。外部の弁護士が関与する範囲についてもご相談いただけます。申告内容や関係者の情報の共有は必要な範囲で行います。
Q顧問社労士がいますが、弁護士にも依頼できますか。
現在の役割分担を伺い、必要な連携を検討します。賃金計算や届出に関わる運用と、紛争の法的評価、相手方との交渉や裁判対応を整理し、院内の担当者も含めて進めます。確認中の資料や、すでに受けている助言の内容をお知らせください。
医療機関・施設からのご相談
職員への通知や処分の前の確認から、請求・労働審判への対応まで、施設の状況をお聞かせください。病院・クリニック・介護施設の使用者側の立場から、対応と費用をご説明します。
ほかのご相談について


