受付で大声を出す、職員に暴言を浴びせる、長時間の電話を繰り返す。こうした行為が続くと、現場の職員は疲弊してしまいます。どの段階で口頭注意し、誰が窓口となって対応するのか、あらかじめ院内の手順を決めておくことが職員を守る第一歩になります。
当事務所では、まず現場で起きた具体的な言動と、これまでの注意の経過を伺います。そのうえで、口頭での警告、警告書の送付、弁護士への窓口一本化など、状況に応じた具体的な手順を助言します。診療契約を解除できるかどうかの判断も含めて対応します。
患者対応で、施設が判断すること
患者さんからの苦情は、性質ごとに分けて対応します。治療結果への不満、診療費の未払い、職員個人への暴言では、揃えるべき資料も回答の仕方もまったく異なるためです。要求の強さに引きずられず、どの行為で業務に支障が出ているのかをまず見極めます。
繰り返す苦情・暴言
診療への不満と理不尽な暴言は分けて記録に残し、誰がどの範囲まで回答するかを組織として定めます。
確認する撮影・SNSへの投稿
診察室での無断撮影やSNSへの投稿は、他の患者さんのプライバシーにかかわります。院内掲示のルールを示して、撮影の中止や退去を求めてください。
確認する診療費・利用料の未払い
診療費の未払いは、回収の手続きを進めることと、今後の診療を継続するかどうかの判断を切り離して進めます。
確認する入院・退院や利用契約
身元保証人がいない患者さんや退院を拒む患者さんには、行政や福祉窓口と連携しつつ、施設として取れる法的手続きを進めます。
確認する患者への対応を判断する際、「威圧的だった」という主観的な感想は役に立ちません。「何月何日何時、受付で職員〇〇に対し『殺すぞ』と怒鳴り、30分間居座った」というように、日時、発言、継続時間を客観的な事実として記録に残すことが大切です。
相談の段階で、全ての資料が整っている必要はありません。現に続いている言動への対応を先に考え、不足する記録を確認することもできます。すでに院内で作成した注意書きや相手に送ったメールがある場合は、それらを含めて経過を伺います。
診療を続けるかを判断する前に
応招義務と迷惑行為を、具体的な状況に当てはめる
医師法19条1項は、正当な事由がなければ診察治療の求めを拒んではならないと定めています。令和元年12月25日医政発1225第4号の通知は、応招義務を医師が国に対して負う公法上の義務と整理する一方、医療機関としても正当な理由なく診療を拒んではならないとしています。
診療を断れるかどうかで最も重要なのは、患者さんに今すぐ処置が必要な救急性があるかどうかです。そのうえで、診療時間内かどうか、他の医療機関で対応できるか、これまでの信頼関係が保たれているかを見ます。病状が安定していて緊急性がない場合には、信頼関係が失われていることなどを理由にお断りを検討する余地が生じますが、一度怒鳴られたというだけで診療拒否が正当化されるわけではありません。
診療とは無関係な理不尽な要求を執拗に繰り返し、治療の前提となる信頼関係が完全に失われているときは、新たな診療をお断りすることが法的に正当化され得ます。院長先生から患者さんの病状やこれまでの経緯をお伺いし、お断りする正当な事由と具体的な伝え方を一緒に組み立てます。
注意から判断まで、経過を共有する
段階を選ぶと、確認する内容が切り替わります。
記録を残す
患者さんの病状や緊急性と、暴言などの問題行為は分けて記録します。見聞きした事実を職員ごとにメモに残してください。
口頭で伝える
治療の説明とは別に、止めてほしい迷惑行為を明確に伝えます。担当者ごとに言うことが変わらないよう組織で方針を揃えます。
文書で警告する
口頭注意で収まらなければ、具体的な禁止行為を明記した警告書を手渡します。誓約書への署名を求めることも有効ですが、書面があるだけで直ちに診療を断れるわけではない点には注意が必要です。
診療継続を検討する
警告後も悪質な行為が続く場合は、緊急性がないことを再確認したうえで、診療契約の解除を検討します。お断りする際も、他院の紹介や診療情報の提供を丁寧に行うことがトラブル防止につながります。
この流れは、全ての事案で同じ順序を機械的に踏むという意味ではありません。暴力などが生じているときは安全の確保を優先し、過去にどのような注意をしたかが不明なときは、その経過を確認します。「何回注意すれば断れる」という一律の回数では判断できません。一方で、脅迫など犯罪に当たるような言動があった場合には、段階を踏まずにお断りを検討することもあり得ます。
透析のように治療の継続が重要な患者では、迷惑行為への注意と並行して、治療への影響や転院の調整を考える必要があります。受入先の見通し、紹介に必要な診療情報、患者への説明の経過を確認し、通知だけで対応を終わらせないよう検討します。
※事案の内容・証拠関係により結果は異なり、同様の結果を保証するものではありません。守秘義務・個人情報保護のため、事案の本質を損なわない範囲で内容を変更・省略しています。
暴言・暴力とカスハラへの組織対応

職員が患者さんから暴言やセクハラを受けたとき、その職員一人に対応を任せてはいけません。すぐに別の職員が交代し、複数人で対応することが基本です。正当な苦情に耳を傾けることと、不当な暴力を受け入れることは別問題です。患者さんは対等な一人の人であり、職員が暴言や暴力に耐え続ける必要はありません。
- 報告
- 事実確認
- 対応の共有
職員の身体に危険が及ぶおそれがあるときは、ためらわず110番通報してください。殴る、胸ぐらをつかむといった行為は暴行罪(刑法208条)、「殺すぞ」といった発言は脅迫罪(同222条)、大声で居座って業務を止める行為は威力業務妨害罪(同234条)にあたり得ます。警察への被害申告と、病院としての警告は並行して進めます。
カスハラ対策は、令和8年厚生労働省告示第51号の指針に沿って進めます。院内にポスターを貼るだけでなく、被害を受けた職員がすぐに報告できる相談窓口を決め、事案発生時に組織として動ける連絡網をあらかじめ作っておく必要があります。
夜間や休日、訪問診療・訪問看護・訪問介護では、通常の管理者にすぐ連絡できるとは限りません。連絡がつかないときの引継先や、対応を中断して安全な場所へ移る判断を誰が行うかまで確認します。実際に使える手順にするため、受付、医事課、看護部門、管理部門で異なる困りごとを伺います。
撮影・SNS・書面の要求への対応
無断撮影・録音と投稿を分けて確認する
診察室でスマートフォンを向けられたら、その場で撮影や録画をやめるよう求めてください。職員や他の患者さんが映り込めば、その方々のプライバシーを損なうことになります。ただし、無理に端末を取り上げると別のトラブルになるため、院内ルールで無断撮影を禁じていることを、落ち着いて伝えるのが肝心です。
ネット上に事実無根の悪口を書かれたら、まず画面のスクリーンショットとURLを保存してください。感情的になってGoogleの口コミ返信欄で反論してはいけません。患者さんの病状に触れると守秘義務違反を問われかねないためです。削除要請や発信者の特定は、弁護士を通じて法的に進めます。
診断書・紹介状には、確認できる事実を記載する
「会社を休むために重い病名にしてほしい」「保険金を請求したいから日付を変えてほしい」と迫られても、事実と異なる診断書を書くことはできません。強く求められたとしても、診療で確認できていないことは書けない、とお断りしてください。
官公庁など公務所に提出すべき診断書等に虚偽の記載をすると、医師自身が虚偽診断書等作成罪(刑法160条)に問われます。断り切れずに困っている場合は、当事務所の弁護士が代理人として間に入り、応じられない旨の通知を出して窓口を引き受けます。
未収金・入退院・介護施設の契約
未収金は、請求の経過と診療継続を切り分ける
何度請求書を送っても診療費が支払われない場合、まず未払いの理由を確かめます。経済的な困窮なのか、単なる失念なのか、治療への不満から支払いを拒んでいるのかによって対応が異なるためです。回収の見込みに応じて、内容証明郵便の送付や少額訴訟などの手続きを段階的に選択します。
2020年4月1日以降に生じた診療報酬債権は、原則として、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかります(民法166条1項1号)。催告による完成猶予は6か月です(同150条1項)。督促を繰り返していれば期限を気にしなくてよいというものではないため、古い未収金ほど請求と支払の経過を先に確認します。
「過去に未払いがあるから」という理由だけで受診をお断りすることは、応招義務に関する通知上、正当化されません。支払能力があるのに悪意をもって支払わないといった事情がない限り、診療は行う必要があります。未払金の回収と、目の前の診療は切り離して考えてください。
身元保証人がいない入院と、退院に応じない場合
厚生労働省医政局医事課長通知(平成30年4月27日医政医発0427第2号)は、身元保証人等がいないことのみを理由とする入院拒否は、医師法19条1項に抵触するとしています。入院時に必要な連絡、費用の支払、退院後の支援について、何が確保できず困っているのかを具体化し、院内の担当者や関係機関との調整を考えます。
治療が終わり、入院を続ける医学的な必要がなくなったのに退院に応じない患者さんには、診療契約を解除したうえで病室の明渡しを求めることが考えられます。退院先の確保やご家族への説明を尽くした経過をカルテ等に残したうえで、必要に応じて明渡しの訴訟を提起します。
※事案の内容・証拠関係により結果は異なり、同様の結果を保証するものではありません。守秘義務・個人情報保護のため、事案の本質を損なわない範囲で内容を変更・省略しています。
介護施設・訪問サービスの利用契約を確認する
介護施設や訪問介護では、ご家族からの理不尽な要求やクレームが、職員の負担や離職につながることがあります。契約書や重要事項説明書をもとに、施設として対応できる範囲とできない範囲の線引きを具体的に示してください。介護事業は医師の応招義務とは異なり、利用契約の定めに沿って判断します。
契約の解除やサービス提供の中止を考える場合は、これまでの注意、改善の有無、利用者の状態、サービスを継続するための調整状況を確認します。担当職員の交代だけで対応を終わらせず、管理者が情報を把握し、利用者や家族への説明と職員の安全確保を一緒に進める体制を整えます。
回答前に整える記録と院内の手順

怒鳴る患者さんに詰め寄られたからといって、その場で手書きのメモや念書を渡してはいけません。後から「病院が過失を認めた」と主張される原因になります。院内用の事実記録と、外部に渡す公式な回答書は厳格に分け、必ず管理者が目を通してから交付してください。
- 対応記録
- 回答文
- 連絡窓口
避けたい対応
- 「困った患者」との評価だけを残す
- 担当者が各自の判断で回答・約束をする
- 注意した記録がないまま診療終了を通知する
整えておきたい対応
- 発言・行為・日時・影響を具体的に記録する
- 回答窓口と管理者への報告手順を決める
- 病状と注意の経過を確認して方針を検討する
相談時には、資料をきれいに作り直すより、残っている原本と経過が分かるものをご用意ください。メールや録音などは、前後のやり取りが分かる状態で保管します。職員から話を聞く際も、他の人の説明に合わせて記録を書き換えるのではなく、それぞれが見聞きした内容を区別して残します。
お手元の資料を確認
相談に向けた資料の確認
手元にある資料にチェックできます。揃っていない段階でもご相談いただけます。
資料には患者や職員の情報が含まれます。院内で共有する範囲と管理方法を決め、相談の際は必要な資料を確認してからお持ちください。フォームにはまず相談の概要を記載いただき、診療記録や録音などの受渡し方法は面談等の調整と併せてご案内します。
弁護士への相談と進め方
トラブルが起きたら、まず今すぐ対応すべき緊急事項と、証拠を固めてから判断する事項を弁護士が整理します。院長先生や医事課のお話を伺ったうえで、警告文書の作成や患者さんとの直接交渉など、必要な範囲に絞って代理人としてお引き受けします。
資料・経過の確認
要求内容と診療・対応の経過を確認し、問題になっている点を整理します。
回答・文書の検討
注意書き、警告文、回答文、誓約書など、必要な文書と伝える順序を検討します。
交渉・体制づくり
依頼内容に応じ、代理人としての交渉、窓口の整理、院内ルールや研修を支援します。
再発を防ぐためのご依頼では、実際に起きた場面を材料に、誰が報告を受け、どの段階で管理者や弁護士へ相談するかを確認します。マニュアルの文言だけを整えるのではなく、夜間や訪問先を含めて、職員が判断に迷ったときの連絡経路を明確にします。研修のご依頼にも応じています。
医療機関からの初回相談は30分無料です。文書作成、交渉、継続的な相談などについては、依頼内容を伺って費用をご説明します。日々の患者対応や院内の判断を継続して相談したい場合には、顧問契約もご検討いただけます。
よくあるご質問
Q何度注意しても暴言が続く患者の診療を断れますか。
注意の回数だけでは判断できません。患者の病状や緊急性、言動の態様、信頼関係、これまでの対応、他の医療機関で診療を受けられる可能性を確認します。注意書きや録音などを基に、診療継続の判断と、施設から何をどのように伝えるかを検討します。
Q職員が被害を受けた場合、施設から相談できますか。
施設側からご相談いただけます。職員が受けた言動や施設の対応を確認し、安全の確保、記録、窓口の整理、警察への相談等を検討します。職員個人の請求と施設の対応が異なる場合は、それぞれの立場と依頼の範囲を確認して進めます。
Q未払いのある患者から、再び受診を求められました。
過去に不払いがあったことだけで受診を断ることは正当化されません。緊急性や支払に関する事情を確認し、診療への対応と未収金の回収を分けて検討します。請求書、支払の経過、相手からの返答が分かる資料をご用意ください。
Q患者が診療を録音していたら、直ちに削除を求められますか。
録音、撮影、SNSへの公開は分けて確認する必要があります。どの場面で何が記録され、他の患者や職員の情報が含まれるか、診療に支障があるかを整理します。院内掲示の内容も踏まえ、施設として伝えるルールや個別の要求を検討します。
Q小規模なクリニックでも対応マニュアルを整えられますか。
施設の規模に応じて整備できます。受付職員が少ない、管理者が診療中で離れにくいといった事情を伺い、報告先や応対の交代、記録の方法を具体化します。作成済みの掲示や注意書きがあれば、それを基に現在の運用との食い違いを確認します。
医療機関・施設からのご相談
繰り返す患者対応、通知を出す前の判断、院内ルールの整備について、施設の状況をお聞かせください。ご相談の範囲と必要な資料を確認し、取り得る対応と費用をご説明します。
ほかのご相談について


