問題社員をいきなり解雇すると、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠くとして無効になりがちです(労働契約法16条)。順序は、記録を残す、書面で注意・指導する、改善の機会を与える、それでも変わらなければ就業規則に基づいて処分する、です。なかでも土台になるのが、日時・事実・指導内容を書いた記録です。
勤務態度に問題がある、ミスを繰り返す、周囲との摩擦が絶えない――。問題社員への対応は、経営者や人事の方にとって最も悩ましい問題のひとつです。放置すれば職場全体の士気に関わり、かといって性急に動けば、今度は会社が法的なリスクを抱え込みます。
この記事では、記録の取り方から、注意書の出し方、懲戒処分、配置転換、退職勧奨、そして最後の解雇まで、実際に踏むべき順に説明します。
いきなり解雇は、多くの場合うまくいきません
解雇が有効となるのは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限られます(労働契約法16条)。裁判所のハードルは高く、「問題がある社員だから」という会社側の認識だけでは足りません。
解雇が無効と判断されると、その社員は在籍していたことになり、解雇の日にさかのぼって賃金(バックペイ)を支払うことになります。争いが1年続けば1年分です。他社で働いて収入を得ていた場合はその分を差し引けますが、平均賃金の6割にあたる部分までは差し引けません。
だからこそ、順序立てた対応が要ります。そして順序を踏んだことを後から示せるのは、記録だけです。
指導記録の書き方
後から振り返ったとき、裁判所が見るのは記録です。口頭で何度注意していても、記録がなければ「指導していない」のと同じに扱われかねません。
何を書くか
1回の指導について、次の6点を残してください。
- 日時と場所――「2026年9月10日 14時00分〜14時20分、第1会議室」
- 同席者――誰が立ち会ったか。可能なら上司以外にもう1名
- 問題となった事実――評価ではなく、起きたことを具体的に
- 指導した内容――何を、いつまでに、どう改めるよう伝えたか
- 本人の言い分――反論や説明を、言われたとおりに
- 改善の期限と次の確認日
書き方の例
悪い例は、こういうものです。
「勤務態度が悪いため注意した。反省の色が見られない。」
これでは、何があったのか分かりません。同じ場面を、こう書きます。
「2026年9月10日14時00分〜14時20分、第1会議室にて、営業部長◯◯および人事課◯◯が同席。9月8日の△△社への納品書について、単価の誤りを3件指摘した。同種の誤りは7月以降で5回目である(7/14、7/28、8/12、8/25、9/8)。本人は『確認する時間がなかった』と述べた。今後は送付前に上長の確認を受けること、9月末までに同種の誤りを0件とすることを指示した。次回確認は10月1日。」
違いは、いつ・何が・何回あったかを数えられる形で書いてあるかです。「反省の色がない」といった主観の記述は、後から見ると会社側の心証を悪くすることさえあります。
やってはいけないこと
後から日付をさかのぼって作る、本人に見せずに一方的に作る、感情的な表現を混ぜる。いずれも、裁判になったときに記録全体の信用を落とします。記録はその日のうちに作り、本人にも内容を確認させてください。
注意書・警告書を出す
口頭の注意を重ねても改善しないときは、書面に切り替えます。懲戒処分ではなく、あくまで指導の一環です。
書面には、これまでの指導の経過(日付を並べる)、今回問題となった事実、改めるべき内容と期限、そして改善されない場合には就業規則に基づく処分を検討することがある旨を書きます。最後の一文があるかどうかで、後の処分の重みが変わります。
渡すときは、本人に受領のサインをもらうか、拒まれた場合は「本人が受領を拒んだため読み上げた」旨を記録に残します。メールで送るのもひとつの方法です。送信記録が残ります。
段階を踏む――注意・指導から懲戒処分へ
それでも改善がなければ、就業規則に基づく懲戒処分を検討します。軽い順に、戒告・けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇です。
ここで押さえておきたいことが四つあります。
- 就業規則に根拠が要る――規則に定めのない処分はできません。懲戒事由が実態に合っていない古い規則のままの会社も多く、その場合は規程の整備が先になります。
- 重すぎる処分は無効になる――行為の性質や態様に照らして相当でなければ、権利の濫用として無効です(労働契約法15条)。1回の遅刻で懲戒解雇、といった処分は通りません。
- 弁明の機会を与える――条文上の明文はありませんが、本人の言い分を聞かずに処分すると、手続の相当性を欠くとして無効と判断されることがあります。
- 同じ行為を二度罰しない――一度処分した行為を理由に、後から重ねて処分することはできません。
減給には上限もあります。1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数回あっても総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法91条)。月給30万円の方であれば、1回あたり数千円、ひと月で3万円までという感覚です。「給料を半分にする」といった処分はできません。
タイプによって対応は変わります
ひと口に問題社員といっても、必要な対応も、残すべき証拠も違います。
- 能力不足――具体的な目標と期限を示し、教育の機会を与えた記録が要ります。とくに新卒や未経験採用の場合、会社の教育責任が問われます。
- 勤怠不良――遅刻・欠勤の日時を一覧にできる形で。タイムカードや入退館記録をそのまま使えます。比較的、事実を示しやすい類型です。
- 協調性の欠如――「周囲が困っている」だけでは足りません。業務にどんな支障が出たかを、具体的な場面で記録します。
- ハラスメントの加害――事実調査の手順そのものが後から争点になります。被害者・加害者・第三者の聴取順、記録の取り方、調査中の配置をどうするか。初動で相談していただきたい類型です。
- メンタル不調が疑われる場合――叱責や処分を重ねると、かえって会社の責任が問われます。休職制度の適用、産業医の関与、主治医の意見の取り方といった別の道筋で考えます。
配置転換という選択肢
環境を変えることで収まる場合もあります。ただし配置転換にも限界があります。裁判例は、①業務上の必要性があるか、②不当な動機や目的でないか、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えないか、という三つの視点で見てきました。
問題社員を辞めさせる目的で遠隔地へ異動させる、明らかに能力と無関係な業務に就ける、といった運用は②や③で引っかかります。
なお2024年4月から、労働条件の明示にあたって就業場所と業務の「変更の範囲」を示すことが必要になりました。この範囲を超える異動を命じるには、別途の同意が要ることになります。採用時の書面を一度確認しておいてください。
退職勧奨の進め方と限界
話し合いによる退職を目指すのが退職勧奨です。それ自体は適法で、解雇より紛争になりにくい方法でもあります。
ただし、執拗に面談を繰り返す、複数人で取り囲む、「辞めなければ懲戒解雇にする」と告げるといった進め方は、退職強要として違法になり得ます。面談の回数、1回の時間、同席者の人数、使う言葉。ここは事前に設計してから臨む場面です。
合意に至ったら、退職日、退職金や解決金の額、貸与物の返却、秘密保持、清算条項までを書面にします。口頭の合意だけで済ませると、後から「解雇だった」と主張されることがあります。
それでも解雇するとき
手を尽くしても改善がなく、解雇に踏み切る場合は、次の手順を守ってください。
- 30日前の予告――または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払います(労働基準法20条)。日数と金額は組み合わせられます。
- 解雇理由証明書――請求があれば交付します(労働基準法22条)。ここに書いた理由が、後の裁判で会社の主張の枠になります。書く前にご相談ください。
- 解雇してはいけない時期がある――業務上のけがや病気で療養のため休業している期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は解雇できません(労働基準法19条)。
付け加えると、解雇の有効・無効は民事の争いで、労働基準監督署は判断しません。監督署が動くのは予告手当の不払いなど法律違反の部分だけです。
弁護士に相談するメリット
- 解雇まで見据えて耐えられる記録と手順を、初動から設計できます
- 懲戒処分の重さについて、裁判例の相場を踏まえて助言できます
- 退職勧奨の面談設計や、合意退職の条件交渉をお任せいただけます
- 調査が必要な事案で、聴取の順序と記録の取り方を組み立てられます
- 就業規則の整備など、次に同じことが起きない仕組みまで手当てできます
この分野は、起きてからより、起きる前からの関与が効きます。顧問契約で日常的にご相談いただいている会社ほど、取れる選択肢は広くなります。
よくあるご質問
Q. 試用期間中なら、自由に辞めてもらえますか。
試用期間中の解雇は通常の解雇より広く認められますが、自由にできるわけではなく、合理的な理由は必要です。採用時に期待した水準と実際の勤務とのずれを、記録で示せるかどうかが分かれ目になります。なお、試用期間中でも14日を超えて使用していれば、解雇予告の規定が適用されます。
Q. 口頭の注意しか残っていません。今から記録を作ってもよいですか。
日付をさかのぼって作るのは避けてください。記録全体の信用を失います。「これまで口頭で注意してきたが改まらないため書面にする」として、今日の日付で経過をまとめた注意書を出すのが正しい進め方です。過去の分はメールや日報など、当時の資料から拾えるものを集めます。
Q. SNSで会社の批判を繰り返す社員がいます。
投稿の内容と影響によっては懲戒の対象になり得ますが、私的な表現活動との線引きは微妙です。まず投稿を保全し(画面の保存と日時の記録)、社名や取引先が特定できる形かどうかを確認したうえでご相談ください。
Q. 無断欠勤が続いており、連絡も取れません。
就業規則の規定を確認しつつ、出社を命じた記録と連絡を試みた記録を残すことが先決です。一定期間の無断欠勤を退職扱いとする規定があっても、適用には慎重な手順が要ります。ご家族や緊急連絡先への連絡、書面の送付先も含めて組み立てます。
Q. 本人が注意書の受領を拒みました。
その場で読み上げ、「◯月◯日、本人に交付しようとしたが受領を拒んだため、同席者◯◯の面前で読み上げた」と記録に残してください。あわせて同じ内容をメールで送っておくと、届いたことを示せます。
Q. ほかの社員から「あの人と働きたくない」と言われています。
その声自体は処分の理由になりません。ただし、実際に業務が回らなくなっている、退職者が出ているといった支障が生じているなら、それは記録すべき事実です。誰がいつどう困ったかを具体的に残してください。
問題社員対応のご相談は当事務所へ
大元・秋山法律事務所(広島市中区八丁堀)では、会社側の立場から、問題社員への対応、懲戒処分の設計、就業規則の整備までお受けしています。
この種の相談は、動いた後より動く前のほうが打てる手が多く残っています。注意書を出す前、面談を始める前の段階でご連絡ください。
082-221-2221(平日9:30〜19:00)
