未払い残業代の請求|時効3年・固定残業代・管理監督者の考え方を広島の弁護士が解説

給与明細と勤務記録から未払い残業代を整理する様子

残業代は、退職した後でも請求できます。時効は3年です。

残業代とは、法定の労働時間を超えて働いた分について、通常の賃金に一定の割増しを加えて支払われるべき賃金のことです。支払われていなければ、在職中であっても、退職された後であっても請求できます。

もっとも、実際に請求できるかどうかは、固定残業代の定めが有効か、管理監督者に当たるか、労働時間をどう立証するかといった点で結論が分かれます。このページでは、金額の考え方、結論を分ける論点、証拠がないときの進め方、請求の手順を順に説明します。

どこからが「残業」なのか

会社が決めた終業時刻を過ぎた時間が、そのまま割増しの対象になるわけではありません。まず用語を整理します。

1

法定労働時間を超えた分(法定時間外)

1日8時間、1週40時間を超えて働いた時間です。ここに2割5分以上の割増しが必要になります。月60時間を超えた部分は5割以上です。

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会社の定めを超えただけの分(法定内残業)

所定の終業時刻は過ぎたものの、1日8時間には収まっている時間です。割増しは必要ありませんが、働いた分の賃金そのものは支払われなければなりません。

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深夜にかかった分

22時から翌5時までの間に働いた時間には、2割5分以上が加算されます。時間外と重なれば5割以上、月60時間を超えた部分と重なれば7割5分以上になります。

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休日に働いた分

週1日の法定休日に働いた場合は3割5分以上です。週休2日制のもう1日(法定外休日)に働いた分は、法定時間外として扱われます。どちらの休日かで率が変わります。

労働時間として数えるかどうかで争いになりやすいのは、制服への着替え、朝礼や清掃、電話番を命じられている休憩時間、参加が事実上強制されている研修です。会社の指揮命令下に置かれていたといえるかどうかで判断されます。持ち帰って行った作業についても、指示や黙認があったかが検討の対象になります。

いくらになるのか、まず桁を知る

請求するかどうかを決める前に、金額の目安を確かめておくと判断しやすくなります。お名前や電話番号の入力は必要ありません。

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時間外労働

法定休日の労働

1時間あたりの基礎賃金
時間外 60時間まで
時間外 60時間を超える分
深夜の加算
法定休日
既払分の控除
1か月あたりの未払額

未払残業代の概算

法定の下限で計算した目安です。実際の請求額は、手当の内訳や勤務の実態によって変わります。

月給から外すもの 基礎になる時間単価を出すとき、月給から差し引くのは、家族手当・通勤手当・住宅手当・別居手当・子女教育手当と、賞与のように1か月を超える期間ごとに支払われるものです。外せるのはこれだけで、役職手当や資格手当は外しません。分母は、その月の所定労働時間です。月によって日数が違う場合は年間の平均を使います。

訴訟になった場合の付加金 裁判所は、未払額と同じ額までの付加金の支払を命じることができます。命じるかどうかは裁判所の判断であり、必ず認められるものではないため、上の概算には含めていません。

請求できるかどうかを分ける論点

会社が支払いを拒む理由は、だいたい次のいずれかに整理できます。どれも「言われたら終わり」ではありません。

固定残業代の定めが有効と認められるには、通常の労働時間の賃金にあたる部分と、割増賃金にあたる部分とが判別できることが必要です。加えて、定めた時間を超えて働いた場合に差額を精算する仕組みがあるかどうかも問われます。給与明細に「みなし残業40時間分を含む」と書いてあるだけで、基本給との内訳が示されず、超過分の精算も行われていない場合、この定め自体が無効と判断される余地があります。無効となれば、支払われていた固定残業代は基礎賃金の一部として扱われ、そのうえで別途割増賃金を請求できることになります。当事務所には、この構成で約380万円を回収した事例があります。

労働基準法41条2号にいう管理監督者に当たる方には、時間外・休日の割増賃金は発生しません。ただし、これに当たるかどうかは役職の名称ではなく実態で判断されます。経営に関する決定に関与しているか、部下の採用や人事について権限があるか、出退勤について自由が認められているか、その地位にふさわしい待遇を受けているか。これらを備えていなければ、店長や課長という肩書きがあっても管理監督者には当たりません。なお、適用が除外されるのは労働時間・休憩・休日に関する規定であり、深夜の割増賃金は管理監督者にも発生します。

労働者に当たるかどうかは、契約書の表題ではなく働き方の実態で判断されます。仕事の依頼を断ることができるか、業務の進め方について具体的な指示を受けているか、勤務の場所と時間が拘束されているか、他の人に代わってもらうことができるか、報酬が労務の対価といえるか。実態として指揮監督の下にあれば、契約書が「業務委託」となっていても労働者として扱われ、割増賃金を請求できる場合があります。

1か月単位や1年単位の変形労働時間制を採る場合、就業規則や労使協定で対象期間と各日・各週の労働時間をあらかじめ特定しておくことが必要です。実際にはシフトが直前に決まる、期間の途中で変更されるといった運用がされている場合、制度の要件を満たさず、通常どおり1日8時間・週40時間を基準に計算すべきことになる余地があります。

専門業務型・企画業務型のいずれも、対象となる業務の範囲が法令で限定されており、労使協定や労使委員会の決議、労働基準監督署への届出が必要です。要件を欠いたまま運用されている例は少なくありません。また、制度が有効であっても、深夜労働と休日労働の割増賃金は別に発生します。

歩合給がある場合、その部分の時間単価は、月給部分とは別に、その期間の総労働時間数で除して算出します。計算方法が異なるため、月給だけを前提とした試算とは金額が変わります。歩合給の中に割増賃金が含まれているという主張が認められるためには、固定残業代と同様に判別できることが必要です。

タイムカードがない場合にどうするか

労働時間を示す資料はタイムカードだけではありません。手元にあるものから組み立てます。

✕ 会社が出してこないもの

  • タイムカード・出勤簿
  • 賃金台帳
  • 就業規則・賃金規程
  • 36協定の届出書
  • シフト表・勤務割
○ ご自身で確保できるもの

  • パソコンのログイン・ログアウト記録
  • 入退館のセキュリティ履歴
  • 業務メールやチャットの送信時刻
  • 手帳やスマートフォンのメモ
  • ご家族への連絡履歴・交通系ICの履歴

使用者には労働時間を適正に把握する義務があります。記録を残していなかったことが、そのまま会社に有利に働くとは限りません。

いま、捨てないでいただきたいもの 給与明細、雇用契約書、就業規則の写し、会社から受け取った通知や辞令。これらは後から入手するのが難しくなります。退職を予定されている場合は、在職中に手元に残しておくことをおすすめします。

会社が資料を出さないとき 弁護士が代理人として賃金台帳やタイムカードの開示を求めます。それでも応じない場合には、労働審判や訴訟の中で提出を促すことになります。会社が労働時間を把握していないと主張する場合、こちらが示した記録にもとづく推計が認められることもあります。

請求の進め方と、かかる期間

いきなり訴訟になるわけではありません。多くは交渉か労働審判で終わります。

1

資料をそろえ、金額を確定させる

手元の資料を確認し、足りないものは会社に開示を求めます。労働時間を集計し、基礎賃金を算出して請求額を確定させます。ここに1か月から2か月ほどかかります。

2

内容証明で請求し、交渉する

請求額と根拠を示した書面を送ります。会社の窓口はこの時点から弁護士になります。事実関係に大きな争いがなければ、この段階で解決することが多くあります。1か月から3か月が目安です。

3

労働審判を申し立てる

交渉がまとまらない場合、裁判官1名と労働審判員2名による審理に移ります。特別の事情がある場合を除き3回以内の期日で終結することとされており、3か月から4か月ほどで結論に至ります。多くは解決金の支払いによる調停の成立で終わります。

4

訴訟で争う

審判に異議が出た場合や、争点が多く証拠調べが必要な場合は訴訟になります。1年前後を見込みますが、途中の和解で終わることも少なくありません。訴訟では付加金が認められる可能性もあります。

労働基準監督署との違い 労基署は法違反に対して事業場を監督し、是正を指導する行政機関です。動いてくれれば会社の姿勢が変わることはありますが、労基署はあなたの代理人ではなく、未払額を計算して請求し、支払わせるところまでは行いません。是正を求めるなら労基署、金銭の回収を求めるなら弁護士、という整理になります。両方を並行して進めることもできます。

業種によって、争点が変わる

同じ未払い残業代でも、何を証拠にし、どこを争うかは働き方によって違います。

1

運送・配送

荷主の都合で発生する荷待ち時間が労働時間に当たるかどうかが最初の争点になります。歩合給が中心の賃金体系では、出来高払制として総労働時間で除して基礎単価を出す扱いになり、通常の月給制とは計算方法が変わります。デジタコやETCの記録、日報が資料になります。

2

医療・介護

夜勤中の仮眠時間や待機時間について、実際に対応が求められる状態であれば労働時間と評価されます。二交代制の勤務表と実際の勤務のずれ、申し送りや記録作成の時間が争点になります。介護記録やナースコールの履歴が資料になります。

3

飲食・小売

店長が管理監督者に当たるかどうかが最大の争点です。シフトを組む権限があっても、自身の労働時間を自由に決められず、経営に関与する立場になければ管理監督者とは認められにくくなります。開店前の仕込みや閉店後の清掃、レジ締めの時間も対象です。

4

建設

常用として指揮命令を受けて働いていたのか、請負として仕事を受けていたのかで、労働者に当たるかどうかが変わります。現場への集合時刻、資材の積込み、移動時間の扱いが争点になります。作業日報や現場の入退場記録が資料になります。

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美容・理容

営業時間外の練習や講習が、参加を事実上強制されているのであれば労働時間になります。指名手当や歩合の扱い、材料費と称する控除の可否も併せて確認します。予約管理システムの履歴が資料になります。

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IT・エンジニア

裁量労働制が適用されていても、対象業務に当たらない、あるいは労使委員会の決議や本人の同意といった要件を欠いていれば、制度自体が無効となり実労働時間で計算します。入退館記録、パソコンのログ、バージョン管理システムの記録が資料になります。

当事務所の弁護士費用

当事務所の基準です。初回のご相談は30分無料で、着手金と報酬金はご依頼をお受けする前に書面でお示しします。

手続着手金報酬金
交渉20万円〜30万円回収額の20〜25%
労働審判30万円〜45万円回収額の20〜25%
訴訟30万円〜50万円回収額の20〜25%

交渉により300万円を回収した場合、着手金25万円と報酬金66万円(回収額の22%)で費用の合計は約91万円、手元に残る額は約209万円という計算になります。ご相談の際に、その事案での見込みをお伝えします。弁護士費用の一覧を見る

よくある質問

Q1退職してから請求しても大丈夫ですか?
請求できます。むしろ在職中は会社との関係を気にして動きにくいため、退職後にご相談に来られる方は多くいます。ただし賃金請求権は各支払期日から3年で時効にかかるため、古い分から順に請求できなくなっていきます。
Q2会社に在籍したまま請求できますか?
できます。在職のまま請求を行う事案も扱っています。請求したことを理由とする不利益な取扱いは許されません。もっとも職場の状況によっては進め方を工夫する必要があるため、ご事情を伺ったうえで方針を決めます。
Q3証拠が何もありませんが、相談してよいですか?
ご相談ください。何が証拠になり得るかは、実際に伺ってみないと分かりません。手元にないと思っていた記録が使えることもあります。逆に、いま確保しておくべきものを早い段階でお伝えできます。
Q4請求すると会社から損害賠償を請求されませんか?
正当な権利の行使ですので、それ自体を理由に賠償責任を負うことはありません。会社から反対に請求がなされた事案でも、認められる範囲は限定的です。そうした対応も含めて代理人として引き受けます。
Q5転職先に知られたくないのですが。
前の勤務先に対する請求ですので、転職先に伝わることは通常ありません。訴訟になった場合の記録の扱いを含め、ご心配な点は事前にご説明します。
Q6アルバイトやパートでも請求できますか?
できます。雇用形態にかかわらず労働基準法は適用されます。所定労働時間が短い方でも、1日8時間・週40時間を超えて働いた分には割増賃金が発生します。
Q7いくらから依頼する意味がありますか?
回収の見込み額と費用の見込みを両方お伝えしたうえで、差引きで手元に残るものが乏しいと判断される場合には、その旨を率直に申し上げます。見通しが立たない段階で受任することはありません。

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