退職日が決まった。残っている有給休暇を使い切りたいと申し出たら、「引継ぎがあるから無理だ」「うちは辞める人に有給は認めていない」と言われた。退職を控えた方から、よく聞く話です。
先に結論を言うと、年次有給休暇は会社の好意で与えられるものではなく、労働基準法が労働者に認めた権利です。会社にあるのは、一定の条件のもとで「休む時季をずらす」権利だけで、休暇そのものを断ることはできません。
会社が断れるのは、休む日をずらすことだけ
会社が有給休暇の申出を退けられるのは、請求された時季に休暇を与えると「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。しかも、できるのは他の時季へ変更することまでです(労働基準法39条5項・時季変更権)。取得そのものを認めない、という選択肢は法律にありません。
「事業の正常な運営を妨げる」にあたるかどうかは、個別的・具体的・客観的に判断されます(昭和23年7月27日基収2622号)。「今は繁忙期だから」「慢性的に人手が足りないから」というだけでは認められません。最高裁判所の判例でも、使用者が代替要員を確保して勤務割を変更するなど通常の配慮を尽くしてもなお、客観的に見て休暇を与えることが困難な状況にあるかどうかが基準とされています(最高裁平成元年7月4日判決)。
条文には、有給休暇を取るときに理由を申告することも、会社の承認を得ることも、要件として書かれていません。なお、権利が生じるのは、雇入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した時点からです(同条1項)。
退職前に、有給休暇を使い切れますか
使い切れます。時季変更権は「別の日に休んでもらう」ための権利で、労働者の退職日を越えて時季を変更することはできないため、退職日までの期間を指定して請求された有給休暇に、会社が時季変更権を行使するのは事実上困難です。都道府県労働局の案内でも、退職直前の有給消化は認められると説明されています。
進め方はこうです。まず手持ちの有給休暇の残日数を確認し、最終出勤日から退職日までの間にその日数を充てる形で、退職日を決めます。期間の定めのない雇用契約なら、退職の申入れから2週間で契約は終了します(民法627条1項)。残日数が2週間分を超えるなら、すべて消化できるよう、退職日をその分だけ先に置いて申し出ます。契約期間の定めがある有期雇用の場合は、期間の途中で辞めることについて別のルールがあります(民法628条など)。
引継ぎを求められたら、有給消化に入る前の出勤期間中に、引継ぎ資料を作って共有するなど、できる範囲で調整すると話が進みやすくなります。もっとも、「引継ぎがすべて終わるまでは有給を使わせない」と一方的に言われても、それに従う法的義務はありません。
「辞める人に有給は認めない」と言われたら
「退職予定者には有給を認めない」と言われても、有給休暇の権利は消えません。労働基準法39条に、退職予定であることを理由に権利を制限できる規定はないからです。断られても、そこで引き下がらないでください。
拒まれたときは、順番に進めます。最初に、有給休暇の残日数を正確に確認します。給与明細や勤怠管理システムのほか、会社には労働者ごとの「年次有給休暇管理簿」を作成する義務があります(同法施行規則24条の7)。次に、休む日程と退職日を、メールや書面など記録に残る方法で会社へ伝えます。会社の返答も、できる限りメールや文書で受け取ります。口頭で断られたら、発言の日時、担当者名、内容をメモに残します。それでも認められないときは、労働局の総合労働相談コーナーや管轄の労働基準監督署に相談します。
この条文に違反して有給休暇を与えなかった会社には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則があります(同法119条1号)。労働者は違反の事実を労働基準監督署に申告でき(同法104条1項)、会社は申告したことを理由に、解雇その他の不利益な取り扱いをしてはなりません(同条2項)。
退職時に消化しきれなかった有給休暇を、会社との合意で買い取ってもらうこともありますが、会社に買い取りに応じる法的義務はありません。事前に「買い取る代わりに日数を減らす(または取得させない)」と取り決めておくこと(買上げの予約)は、法定の休暇日数を奪うことになるため、39条違反とされています(昭和30年11月30日基収4718号)。
年5日の取得義務とは何ですか
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、会社は、基準日から1年以内に、そのうち5日の時季を定めて取得させなければなりません(労働基準法39条7項)。時季を指定するときは、あらかじめ本人の意見を聴く必要があります(同法施行規則24条の6)。
本人が自分で請求して取った日数や、労使協定による計画的付与で取った日数があれば、その分は5日から差し引かれます(同法39条8項)。この義務に違反した会社には、30万円以下の罰金が科されます(同法120条1号)。これは会社に課された義務で、労働者が自分の判断で請求して休む権利(同法39条5項)とは別の仕組みです。年5日も取れていないまま退職日が迫っているなら、会社が義務を果たしていたかどうかも、確かめる材料になります。
弁護士に相談すると
有給休暇の取得拒否だけが問題なら、まずご自身で、記録に残る書面やメールで請求します。それでも拒まれるときに、弁護士名義で通知書を送る、という進め方があります。一方、「退職の手続き全体を整理したい」「未払いの残業代や退職金もあわせて請求したい」「会社と直接やり取りするのが苦痛だ」という場合は、退職日の調整、有給休暇の消化、未払い賃金の請求を、弁護士が代理人としてまとめて進められます。
未払い賃金の請求権は、当分の間3年で時効により消滅します(労働基準法115条、附則143条3項)。有給消化のご相談のときに、未払いの残業代などがないかもあわせて確認します。事案によって会社の対応は異なり、結果はお約束できません。ただ、退職日が迫る前であれば、余裕をもって手順を組み立てられます。
よくあるご質問
Q. 有給休暇を取るのに、理由を伝える必要はありますか?
必要はない、と考えられます。労働基準法39条5項の条文には、有給休暇を取る理由を会社に告げることも、会社の許可を得ることも書かれていないからです。ただ、職場の業務調整が進みやすいように、取りたい日程だけは早めに伝えておくと、無用な摩擦を避けやすくなります。
Q. パートやアルバイトでも、有給休暇はありますか?
あります。雇入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば、パートタイムやアルバイトの方にも付与されます。週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下(または年間の所定労働日数が216日以下)の方は、勤務日数に応じた日数が付与されます(労働基準法39条3項・比例付与)。
Q. 使わなかった有給休暇は、いつまで残りますか?
付与された基準日から2年間です。その間に行使しないと、時効によって消滅します(労働基準法115条)。言い換えれば、前年度に使い切れなかった分は、翌年度に繰り越して使えます。就業規則に「繰越を認めない」と書かれていても、年度が替わっただけで権利が消えることはないとされています(昭和23年5月5日基発686号)。
有給休暇や退職のご相談
大元・秋山法律事務所(広島市中区八丁堀)は、退職時の有給休暇の消化や退職手続きの進め方、未払い賃金の請求など、働く方の労働問題のご相談をお受けしています。ご予約・ご紹介の方は初回30分無料です。
