遺産分割とは?協議・調停・審判の流れと、揉めたときの対処法|広島の弁護士が解説
親が亡くなり、遺産をどう分けるかの話し合いが始まる。多くの方にとって、これが人生で初めての遺産分割です。最初は穏やかに進んでいたはずの話が、いつのまにか感情のぶつかり合いになり、何年も止まったまま。そんなご相談を、広島でも数多くお受けしてきました。
このページでは、遺産分割とは何をどう決める手続なのか、話がまとまらないときに何が起きるのか、そして揉める原因のほとんどを占める「不動産」と「生前のお金の動き」をどう扱うのかを、順にご説明します。
遺産分割とは、何を決める手続か
遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)が残した財産を、誰が・何を・どれだけ引き継ぐかを相続人の間で決めることをいいます。
誤解されやすいのですが、法定相続分が決まっているからといって、自動的にその割合で分かれるわけではありません。法定相続分は「話し合いがまとまらないときの基準」であって、相続人全員が合意すれば、どのような分け方をしても構いません。長男が実家をすべて取得し、他の兄弟が預金を受け取るという分け方も、全員が納得していれば有効です。
逆にいえば、相続人が一人でも反対していれば、遺産分割は成立しません。多数決ではないのです。ここが、遺産分割が長引く最大の理由です。
期限はありません。ただし——
遺産分割の請求そのものに期限はなく、何年経っていても進められます(民法907条1項)。もっとも、相続開始から10年を過ぎると、生前贈与(特別受益)や介護の貢献(寄与分)を主張できなくなり、原則として法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。長く止まっている相続ほど、選べる結論が狭くなっていきます。
まず確認すべき3つのこと
話し合いを始める前に、事実関係を固めておく必要があります。ここが曖昧なまま協議を進めると、後から「そんな財産があったのか」「あの人も相続人だったのか」となり、やり直しになります。
01相続人は誰か
被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取り寄せて確定します。前の配偶者との間に子がいた、認知した子がいた、といったことが後から判明する例は珍しくありません。相続人を一人でも欠いた遺産分割は無効です。
02遺産に何があるか
預貯金、不動産、株式、保険、自動車、そして借入金。プラスの財産だけでなく負債も確認します。不動産は名寄帳、預貯金は残高証明で調べます。他の相続人が通帳を握って開示しない場合の調べ方は後述します。
03遺言書があるか
公正証書遺言は公証役場で検索できます。自筆の遺言書が見つかった場合、法務局の保管制度を使っていないものは、家庭裁判所の検認を受ける必要があります。遺言があれば原則としてその内容が優先し、遺産分割協議は不要になります。
04相続放棄をするかどうか
負債が多い場合は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄ができます(民法915条1項)。この判断は遺産分割より先に来ます。期間の伸長も申し立てられます。
話がまとまらないと、どうなるか
遺産分割は、いきなり裁判になるわけではありません。次の3つの段階を順に進みます。
① 遺産分割協議 ── 相続人だけで話し合う
まずは相続人だけで話し合います。ここでまとまれば、遺産分割協議書を作成し、全員が署名押印(実印)して印鑑証明書を添えます。これで不動産の名義変更も預貯金の解約もできます。
協議書は一度作れば原則としてやり直せません。「実家は兄が取る」という一行だけで済ませてしまい、後から住宅ローンの負担や固定資産税、他の不動産の扱いで再び揉める例をよく見ます。作成前に内容を確認しておくことをおすすめします。
② 遺産分割調停 ── 家庭裁判所で話し合う
協議がまとまらないとき、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停委員2名が間に入り、当事者は交互に呼ばれて話をするため、相手方と顔を合わせずに進められます。感情的な対立が深い事案ほど、この形式が効いてきます。
調停は月1回程度のペースで期日が入り、半年から2年ほどかかるのが一般的です。相続人の一部が遠方にいる場合は、電話会議やウェブ会議で参加できることもあります。
③ 遺産分割審判 ── 裁判官が決める
調停でも合意できなければ、自動的に審判へ移ります。ここでは合意は必要なく、裁判官が資料に基づいて分け方を決定します。
ただし、審判で決まる内容は原則として法定相続分に沿ったものです。「実家は自分が住み続けたい」「介護をしてきた分を考慮してほしい」といった希望は、証拠で裏づけられなければ通りません。話し合いの段階のほうが、柔軟な解決ができる余地は大きいのです。
相手方に弁護士がついたら
「代理人に就任した」という書面が届いたら、ご自身だけで返答される前にご相談ください。書面には回答期限が設けられていることが多く、そのまま応じると不利な前提が固まってしまうことがあります。
分け方は4つ。どれを選ぶかで結論が変わる
広島のご相談では、遺産の大半が実家や土地というケースが少なくありません。現金と違って切り分けられないため、ここが最大の争点になります。分け方には次の4つの型があります。
| 分け方 | 内容 | 向いている場面/注意点 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産を形のまま分ける。不動産は長男、預金は次男、というように。 | 分けられる財産の種類が揃っていれば最も単純。遺産が不動産だけの場合は使えない。 |
| 代償分割 | 一人が不動産を取得し、他の相続人にその分の金銭(代償金)を支払う。 | 実家に住み続けたい方がいる場合の定番。支払う側に資力が必要。審判では特別の事情があると認められるときに選択される(家事事件手続法195条)。 |
| 換価分割 | 不動産を売却し、代金を分ける。 | 金額で公平に分けやすい。住んでいる方がいると合意が難しい。審判では必要と認められるとき、競売または任意売却が命じられる(同法194条)。 |
| 共有 | 複数の相続人の共有名義にする。 | その場は収まるが、売却や建て替えに共有者全員の関与が必要になる。世代が下がると人数が増え、動かせなくなる。できれば避けたい選択。 |
※実務上は現物分割を原則とし、難しい場合に代償・換価を検討する順で進むのが一般的です。ただし、この順序を定めた条文があるわけではなく、遺産の内容と各相続人の事情をふまえた個別の判断になります。
実は、揉めているのは「分け方」ではなく「評価額」
代償分割を選ぶとしましょう。実家を兄が取得し、弟に代償金を払う。ここで必ず問題になるのが、その実家をいくらと見るかです。
同じ不動産でも、根拠にする数字によって金額はまったく違ってきます。
| 評価の方法 | 性格 | 水準の目安 |
|---|---|---|
| 固定資産税評価額 | 市町村が課税のために付ける価格。毎年の納税通知書で分かる。 | 実勢価格の7割程度とされる |
| 相続税評価額(路線価) | 相続税の計算に使う価格。国税庁が毎年公表。 | 実勢価格の8割程度とされる |
| 実勢価格(時価) | 実際に売買される価格。不動産業者の査定で把握する。 | 売却の現実に最も近い |
| 不動産鑑定評価 | 不動産鑑定士による正式な評価。費用がかかる。 | 裁判所の手続で最も重い証拠 |
不動産を取得する側は「固定資産税評価額で計算したい」、代償金を受け取る側は「実際に売れる値段で計算してほしい」。立場によって望ましい数字が正反対になるため、ここで話が止まります。数千万円の不動産であれば、評価の取り方だけで数百万円の差が生じます。
どの資料を、どの順番で出すかが結果を左右します。
いきなり鑑定に進むと費用も時間もかかります。まずは複数社の査定を揃えて幅を示し、それでも折り合わなければ調停の中で鑑定を検討する、という段取りが現実的です。相手方が出してきた査定書の前提条件(土地の形状、接道、再建築の可否など)に無理がないかを見ることも重要です。
なお、遺産に賃貸物件がある場合は、相続開始後の家賃収入をどう扱うかという問題も出てきます。誰が管理し、誰が受け取っていたのかを早い段階で整理しておかないと、後から精算をめぐって別の争いになります。
「不公平だ」と感じる3つの原因
法定相続分どおりに分ければ公平か、というと、そうとは限りません。生前の出来事を分割に反映させる仕組みが用意されています。
特別受益 ── 生前にもらっていた分
相続人の一人だけが、住宅資金の援助を受けていた。事業の開業資金を出してもらっていた。こうした生前贈与は「特別受益」として、遺産に持ち戻して計算できる場合があります(民法903条)。結果として、その相続人の取り分は減ります。
もっとも、何が特別受益に当たるかは争いになりやすい部分です。学費や結婚費用、生活費の援助については、その家庭の生活水準に照らして「扶養の範囲か、それを超える贈与か」が問われます。
寄与分 ── 貢献してきた分
被相続人の介護を長年続けてきた。家業を無給で手伝ってきた。こうした貢献は「寄与分」として、取り分に上乗せを求められる場合があります(民法904条の2)。
ただし、認められるハードルは高めです。単に同居していた、時々世話をしていた、という程度では足りず、通常期待される程度を超える特別の寄与であることと、それによって遺産の維持や増加に実際に貢献したことが必要とされます。介護日誌、領収書、勤務実態が分かる資料など、記録が残っているかどうかで結論が変わります。
この2つには10年の区切りがあります。
相続開始から10年を過ぎると、特別受益も寄与分も主張できなくなり、原則として法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。2023年4月の改正で入った仕組みで、それより前に開始した相続にも適用されますが猶予があり、2018年3月31日までに開始した相続は、2028年3月31日までに家庭裁判所へ遺産分割を請求する必要があります。長く放置している相続ほど、この期日が効いてきます。
使い込み ── 生前・死後に動いていたお金
「親の口座から、亡くなる前に多額の引き出しがあった」「同居していた兄弟が通帳と印鑑を管理していて、内容を見せてくれない」。ご相談の中でも特に多い類型です。
まず、金融機関は預金者に対して取引経過を開示する義務を負っており、相続人の一人は、他の相続人の同意がなくても単独で開示を求められます(最高裁平成21年1月22日判決)。憶測で言い合う前に、いつ・いくら動いたかという事実を押さえるところから始めます。
亡くなる前の引き出しについては、不当利得の返還請求(民法703条・704条)や不法行為に基づく損害賠償請求(同709条)として返還を求めます。一方、相続が始まった後に引き出された場合は、他の相続人の同意があれば、その財産がまだ遺産にあるものとして遺産分割を進められます。引き出した本人の同意は必要ありません(民法906条の2)。以前は別に訴訟が必要だった場面が、遺産分割の手続の中で処理できるようになりました。
財産を教えてもらえないとき
遺産の全体像が分からないままでは、分け方を議論しても意味がありません。他の相続人が開示に応じない場合でも、調べる手段はあります。
- 預貯金は、相続人であることを示す戸籍を添えて、金融機関に残高証明と取引履歴を単独で請求できます
- 不動産は、市区町村で名寄帳を取得すれば、その自治体内にある被相続人名義の物件を一覧で把握できます
- 証券口座は、証券保管振替機構(ほふり)への開示請求で、取引のある証券会社を特定できます
- それでも判明しない場合、弁護士会を通じた照会(弁護士法23条の2)という方法があります
調停を申し立てた後であれば、裁判所を通じて資料の提出を求めることもできます。「見せてくれないから何もできない」ということは、実務上ほとんどありません。
弁護士に依頼すると、何が変わるか
相手と直接やり取りしなくてよくなる
連絡の窓口が弁護士に変わります。感情的なやり取りから離れられることが、実際にはいちばん大きな効果かもしれません。調停に進んでも、相手方と顔を合わせずに済みます。
争点が整理される
「不公平だ」という感覚を、特別受益・寄与分・使い込み・評価額といった法律上の論点に翻訳します。何をどの資料で立証すべきかが決まると、話は前に進み始めます。
資料を集められる
取引履歴の開示請求、名寄帳の取得、弁護士会照会。相続人ご自身では手が届かない調査も、代理人であれば進められます。
着地点が見える
審判まで進んだ場合の見通しが立つと、どこで折り合うべきかが判断できます。粘るべき場面と、譲ってよい場面が分かることが、結果的に早期の解決につながります。
よくあるご質問
遺産分割に期限はありますか。
相続人の一人が話し合いに応じません。
実家に住み続けたいのですが、代償金を払うお金がありません。
遺産分割がまとまる前に、葬儀費用を預金から出せますか。
他の相続人に弁護士がついたと連絡がありました。
遠方に住んでいますが、広島の実家の相続について相談できますか。
広島市中区八丁堀。話がこじれる前でも、すでに調停が始まっていても、状況に応じてご説明します。
※本ページの記載は一般的な説明です。個別の事案では結論が異なる場合があります。掲載している条文・判例は2026年7月時点のものです。