「夫は定年までまだ数年あるが、退職金は分けてもらえるのか」「もう受け取ったと聞いたが、いくら分ければよいのか」。離婚の話し合いで、受け取る側からも、支払う側からも出てくる疑問です。退職金は財産分与で大きな金額になることがありますが、まだ受け取っていない場合の考え方は、分かりにくい財産でもあります。
退職金は、婚姻期間に対応する部分が対象になる
婚姻期間に対応する部分の退職金は、財産分与の対象になります。これが実務の考え方です。財産分与は、婚姻中に夫婦が取得し、維持した財産を、各自の寄与の程度などを考慮して分ける制度です(民法768条3項)。退職金には、在職中の働きに対する賃金の後払いという面もあるため、婚姻中の勤務に対応する部分は、夫婦で築いたものと考えられています。寄与の程度は、異なることが明らかでないときは相等しいものとされ(同項)、裁判所の運用でも2分の1ずつとするのが一般的です。
受け取り済みでも、これからでも対象になり得る
「まだもらっていないから、分けられない」と思われがちですが、そうとは限りません。
すでに受け取った退職金は、婚姻期間に対応する部分が預貯金などの形で残っていれば、分ける対象に入ります。
これから受け取る退職金は、離婚の時点でまだ手元にありません。それでも、将来受け取れる見込みがあれば、対象になり得ます。裁判所が公開している案内には、定年までの期間の長短にかかわらず、基準時に自己都合で退職した場合の金額を使うとするものがあります(岡山家庭裁判所の財産一覧表の入力案内)。もっとも、勤務先に退職金の制度があるか、支給の見込みがどの程度かによって扱いは変わり得るので、規程などで確かめる必要があります。
分ける対象の金額は、どう計算しますか
家庭裁判所の案内で多く示されている計算は、基準時に自己都合で退職したと仮定した退職金額に、在職期間のうち婚姻して同居していた期間が占める割合を掛けた額を、分ける対象とする方法です。式にすると、退職金額×(婚姻期間÷在職期間)です(札幌家庭裁判所は「同居期間」、岡山家庭裁判所は「婚姻から基準時までの期間」で数えており、事案によって扱いは異なります)。基準時は、夫婦の経済的な協力関係が終わった時点で、一般的には別居時とされます(横浜家庭裁判所の案内)。
たとえば、別居時に自己都合で退職した場合の退職金が1,500万円、在職30年のうち婚姻から別居までが20年だとすると、対象は1,500万円×20÷30で1,000万円です。2分の1ずつなら、500万円が相手方の取り分の目安になります。数字は仮の例で、実際は個別の事情で変わります。
退職がまだ先の場合、支払いはどう取り決めますか
方法は大きく二つあります。離婚の時点で、基準時の退職金額をもとに計算した金額を、一括や分割で支払う方法。もう一つは、将来退職金を受け取ったときに、その一部を支払う約束をする方法です。後者には、退職の時期や会社の事情、約束が守られるかが、先々まで分からないという弱点があります。そのため、金額の算出方法、支払う時期(受け取りの何日後までか)、支払われなかったときの扱いを、公正証書などで具体的に決めておきます。まとまらなければ、家庭裁判所の調停・審判で決めます。
役員や経営者の退職金は、見通しが違う
同じ財産分与の枠組みで考えますが、見通しの立てやすさがかなり違います。会社員の退職金は、多くの場合、規程があって計算の筋道が立ちます。一方、役員の退職慰労金は、会社の定めや決議の有無によって、そもそも支給されるか、いくらになるかが変わります。さらに経営者の場合は、退職金だけでなく、会社の株式や出資の評価も論点になります。詳しくは、経営者・会社役員の離婚のページをご覧ください。
集めておく資料
基本は、退職金規程(就業規則の退職金の部分)、会社が出す退職金の支給見込額の証明書、在職期間が分かる資料です。裁判所の案内も、退職金の支給があることと算出の根拠が分かる資料として、退職金支給(見込)額証明書や退職金支給規定の提出を求めています(岡山家庭裁判所)。
別居後は、相手の勤務先の資料が手に入りにくくなることがあります。同居中であれば、規程や見込額の資料の写しを取っておくと、あとで役に立ちます。
弁護士に相談すると
勤務先の退職金制度の有無、在職期間、婚姻期間、別居の時期を伺って、対象になる金額の見当をつけます。そのうえで、退職金のほか預貯金や不動産、保険を含めた財産分与の全体を整理し、離婚時に払うのか、退職時に払うのかといった取り決め方を考えます。相手が資料を出さない場合は、調停での調査嘱託などの手段も検討します。結果のお約束はできませんが、見通しと選べる手段をお伝えします。
よくあるご質問
Q. 定年までまだ10年以上ありますが、退職金は対象になりますか?
対象になり得ます。裁判所の案内には、定年までの期間の長短にかかわらず、基準時に自己都合で退職した場合の金額を使うとするものがあります(岡山家庭裁判所)。ただし、勤務先の制度や支給の見込みによって扱いが変わる余地はあります。
Q. 婚姻前から同じ会社に勤めていた場合も、全額が対象ですか?
全額は対象になりません。婚姻前の在職期間に対応する部分は含まれず、計算式のとおり、在職期間のうち婚姻して同居していた期間の割合で按分します。
Q. 離婚したあとでも、退職金について請求できますか?
離婚から5年以内であれば、家庭裁判所に財産分与を求める調停や審判を申し立てられます(民法768条2項)。ただし、2026年3月31日以前に離婚した場合は、従来どおり2年です(改正法附則4条)。退職金が離婚の後に支給される予定でも、離婚のときに取り決めておくほうが、あとのもつれを防げます。
退職金・財産分与のご相談
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